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全く面識のない人たちと、遠い異国の地でバイクパッキングの旅を想像したことはありますか?このコラムは、5カ国から集まった5人の女性たちが、トルコのトロス山脈をグラベルバイクで横断する様子を追ったドキュメンタリーです。ぜひ、動画や文章を読んで、彼女たちと一緒に旅をしている気分になってください。



夏の間は、旅行の予定でいつもいっぱいになりがちです。そんな中で、思い付きで冒険をする時間なんてあるでしょうか?
サミから電話があった時、私はスーパーの野菜売り場に立っていました。今振り返ると、あの1本の電話は私の人生がより豊かになっていく始まりでした。

その電話は、私をいつもの夏の旅行から遠く引き離し、未知の文化に飛び込むきっかけをくれました。サミに誘われたその旅は、地形的にも感情的にも起伏に富んだバイクパッキングの魅力を、まさに肌で感じられる旅でした。
バイクパッキングの醍醐味と魅力は、荷物の重さと快適さのバランスを見つけることにあります。1週間もバイクで旅をすると、生きていくために本当に必要なものは、
ごくわずかだということに気づかされます。そして、自分の持っているものと、時として、一緒に旅をしている仲間たちに無条件で頼らなければなりません。

サミからの電話に「行くよ、参加する」と迷いなく答えた時、私は一緒に行くグループの誰のことも知りませんでした。彼女たちと初めて顔を合わせたのは、トルコで旅が始まるその瞬間だったのです。



グループで走っていると、このような「マジック」が起こることを知っていますか?最初の数時間はお互い遠慮がちですが、一緒にペダルを漕ぐ距離が長くなるほどに、自然と心の距離は縮まっていきます。ただ体力を分かち合うだけではなく、感情も共有するようになります。全員が、モチベーションを高めたり、困難な場面で笑顔で励ましあうことで旅の成功につなげていくことができます。

バックグラウンドや経験が違っていても、私たちはすぐにひとつのチームになれました。そしてこの絆は、旅が終わった今でも変わらず私たちをつないでくれています。
渓谷沿いを駆け抜けた初日から、絵画のように美しい景色が広がっていました。透き通った水、険しい岩肌を縫うように流れるターコイズブルーの川、そして息を呑むような急峻な山の上り坂──重たい荷物のせいで、文字通り息が切れる場面も多くありました。 バッグには、修理キット、キャンプ用品、軽量ダウンの寝袋、マット、テント、そして身の回りの日用品がぎっしりと詰まっていました。夜の焚き火を囲むためのトランプと、アンタルヤの奥地にはどのような野生動物が出るのかわからなかったので、アーミーナイフも忘れずに持っていきました。

旅の2日目は、デレブチャクを目指して進みました。体力的には厳しい道のりでしたが、最初のキャンプ地が待っているという期待が、私たちを奮い立たせました。 カップでつくったパスタの夕食と満天の星空の下で一夜を過ごし、翌朝向かったのは伝説のシルクロード沿いに位置する歴史ある村、サリハチラルです。 オスマン帝国時代の建築様式や“ボタン付きの家”と呼ばれる独特の建物の数々に、まるで時代を遡ったかのような感覚を覚えました。 多くの建物はすでに朽ちて住めなくなっていましたが、人々の温かいもてなしは本当に心に残るものでした。 ある年配の女性が、ふとしたきっかけから、私たちを彼女の小さな工場に招いてくれ、タヒニ(ごまペースト)を試食させてくれました。 香ばしく炒られたゴマの香り──それは旅の最初の数日間、自転車に乗る私たちを幾たびも包み込んだ印象的な香りでした。

私たちは旅の中で、チャンスがあるときにはできるだけ、地元の人たちとコミュニケーションをとるようにしていました。
4日目、私たちはギュンドオムシュへ向けて旅を続けました。 最終日の予定地マナヴガトの海岸を思い、進むごとに海への期待は高まります。 冷たい水に浸かり、旅の疲れを洗い流す爽快なひとときをイメージすると、まるで翼が生えたかのような気分になりました。 しかし、この旅は、私の想像とまったく違った結末を迎えることになったのです。

周囲に何もない辺鄙な場所を走っていたときのこと、出発から1時間ほど経った頃でしょうか──突然、まるでヘッドライトに照らされた鹿のように身動きが取れなくなりました。 一瞬で「もう避けきれない」と悟る、あの瞬間です。

その次の瞬間、カーブを曲がってきた車と正面衝突しました。 デニサが私より少し先を走っていましたが、運転手はサイクリストがいることに驚き慌てて少し進路を変え、結果として私の方へ向かってきたのです。 目を開けた次の瞬間、私はフロントガラスに頭を突っ込んでいました。 まるで時間が止まったかのようでした。 ヘルメットが衝撃を吸収してくれたようで、周りの皆が私を救おうと必死になる中、自分は不思議な安心感を感じていました。 痛みは全く感じず、首に刺さったガラス片や傷もその時は気になりませんでした。「そんなに大したことじゃなかったよね?」──本気でそう思っていたのです。



病院に着いた当初、誰も私の言葉を理解してくれませんでした。 救急車の中では、救急隊員がGoogleの翻訳アプリを使い、なんとかフレンドリーに会話をしようとしてくれました。その後、医師は言葉ではなく表情と態度で、どれほど危険な状況だったかを伝えてくれました。 首に刺さったガラス片は、重要な動脈をほんの1~2センチ外れていただけだったのです。

この事故では、理屈では説明できないほどの「運の良さ」に助けられました。翌朝、私以外のグループのメンバーは再び出発し、ルートを走り続けてくれました。無事でいられたことへの感謝の気持ちは、やがて別の感情に変わっていきました──それは「未完」という想い。

なんだか、悲しかったのです。

挑戦し続けて来た自分のスポーツ人生の中で、初めて完走できなかった。それがとても悔しかった。もちろん、スポーツにおいて挫折はつきものです。山に挑めば成長できるし、時にはその山に打ちのめされることだってある。それは理屈としてわかっているつもりでした。でも、今年に入ってから数えきれないほどのバイクレースやツアー、何千キロもの距離を走ってきた私にとって、トルコの山々が、これほど厳しい形で“運命は自分ではコントロールできない”という大切な教訓を私に教えてくれるとは想像もしていませんでした。



それでも、彼女たちをがっかりさせてしまったという思いが最後まで心のどこかに残っていました。

私たちは、ほんの短期間のうちに驚くほど深い絆で結ばれていました。チームの中では、それぞれが自分の役割を果たしていて、誰ひとり欠かすことができませんでした。
だからこそ、彼女たちと過ごす一分一秒を大切にしたかったし、特に最後の瞬間は絶対に一緒にいたいと思っていました。

だから、ゴールであるビーチで再会できたときは、本当にうれしかったです。この冒険を通して、多くのことを学びました。でも、それ以上に大きな気づきだったのは、見知らぬ者同士が、こんなにも早く「本当の友達」になれる ということ。

私たちが一緒に走るのは、これが最後ではないことは確かです。

 
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