文: Athena Mellor

イングランドの最北端、ノーサンバーランド国立公園の最高峰であるチェビオット丘陵は、スコットランド北東部との境界に連なっています。北海を一望できるチェビオット丘陵は、緑豊かで曲がりくねった谷が交差する荒野の丘陵地形が特徴で、古代の砦や角のある野生のヤギが生息しています。

イギリスには壮大な風景と野趣あふれたハイキングエイリアがたくさんありますが、その中でもチェビオット丘陵はまだまだ未開拓なエリアです。私達は、ライターのアテナ・メラーと彼女のパートナーである写真家のデビッド・ハーヴェイを、イギリスの田舎にあるこの荒野について詳しく調査するため15kmのハイキングに派遣しました。

ノーサンバーランド国立公園にある815mの最高峰、チェビオット(Cheviot)を目指すには、寒くて雨の少ない日を選ぶのは当然のことでした。それでも、ノーサンバーランドのハーソープ渓谷 (Harthope Valley) を歩く15 kmのハイキングに出発する時間が近づくにつれ、天気予報はより予想できなくなってきました。低い雲がルートの大部分を覆い隠すと予測され、強風と相まって、経験のあるヒルウォーカーでもかなりの時間を要することが想定されます。標高の高いルートをとるのではなく、低地ルートにすべきか、何度も計画を変更することを検討しました。しかし、パートナーのハーベイと私にとって、荒野が引きつけるものは、不安定な天気予報にもはるかに勝っています。そして、私たちはついにブーツのひもを締め、追加のレイヤーの服と大量のトレイルスナックが詰まったリュックを背負い、とにかくノーサンバーランドの高い丘を目指し出発したのです。
イギリスの野生の場所を探検することに多くの時間を費やす私ですが、今回、ノーサンバーランド国立公園では非常に短い時間しか過ごせませんでした。そこは私にとって、険しく神秘的で歴史に満ちた魅力あふれる場所であり、私がもっと探検したいと思っていたイギリスの場所のひとつでもありました。イギリスで最も美しい川、最も澄んだ空気、最も暗い空の故郷であるノーサンバーランドは、ハイキング、水泳、クライミング、探検の無限の機会がある自然愛好家のパラダイスです。ここは、スコットランドとの国境に非常に近いため、多くの人がノーサンバーランド国立公園を通り過ぎてスコットランドの山々を目指していきます。つまり、ノーサンバーランド国立公園は、国内で最も人が少ない国立公園の1つといえるでしょう。この丘を独り占めできる特別な一日となりました。

ハイキングの前日、ハドリアヌスの長城(Hadrian’s Wall)にあるユースホステル The Sillに宿泊 。周囲の風景を反映して溶け込むように設計された美しい天井が施された印象的な建物でした。また、前日の夕暮れ時、ハドリアヌスの長城にある有名なシカモア・ギャップ(Sycamore Gap)へでかけました。ハーベイは、1990年代の名作「ロビンフッド:泥棒の王子」で有名な場所を訪れるという子供時代からの夢を実現することができ大喜び。当日は、たっぷりの朝食とコーヒーで一日の燃料を補給し、出発地点である国立公園の北60マイルにあるハーソープ渓谷(Harthope Valley)へ向かいました。
ノーサンバーランドには2つの最高峰がありますが、私たちはこの谷のルートを選びました。私は高いところに立って自分がさまよっている場所を実際に見下ろすのが大好きです。それでも谷に近づくにつれ、最高峰が重い雲に覆われているのが見え、今日は標高800mからの景色はないなと確信していました。しかし、ある瞬間、雲が晴れすべての丘が顔を出したのです。その瞬間、計画を変更しなくてよかったと心から思いました。

ハウジー・クロッグス(Housey Crags)

ハートホープ・バーン(Harthope Burn)から登りだすと、周囲の丘や谷の景色が広がり始めました。他に生息するものがいないかのような質感と毛布に覆われたような荒涼とした風景が現れてすぐに、丸みを帯びた山頂に囲まれた突き出した岩層であるハウジー・クロッグス(Housey Crags)に到着しました。ホルンフェルで形成されたゴツゴツした岩山からは、まだ雲に覆われているチェビオットと、谷に這う曲がりくねった小川の景色を眺めることができました。

私たちのOrdnanceSurveyマップ(イギリスで主流の地形図)には、ハウジー・クロッグス(Housey Crags)とロング・クロッグス(Long Crags)の近くに古代集落の遺跡があると示されていました。しばらく探し回りましたが、その痕跡を見つけることができませんでした。しかし遠い遠い昔、青銅器時代と鉄器時代に、この丘の中腹で生活する人々がいたことを知っていたので、今その地に立っているということは、とても神秘的なことでした。後で、この場所に6つの小屋でできたサークル跡があり、当時は天候に恵まれ、高い標高でも農業で生活できたことを知りました。

ハウジー・クロッグス(Housey Crags)と隣接するロング・クロッグス(Long Crags)に予想以上の時間を使ったため、雲と広大な風景の間に太陽が降り注ぐ中、今からその日の最初のピークに向かう急な上り坂に戻るには難しい状況となりました。
ヘッジホープ・ヒル(Hedgehope Hill)

標高715mにあるヘッジホープ・ヒル(Hedgehope Hil)は、ノーサンバーランド国立公園で2番目に高い山であり、丸みを帯びた頂上への登りは急ですがや登りがいのある山です。頂上まであと数百メートルのところで、頂上は厚い雲の中に姿を消し、色とりどりの谷が濃い霧に消えていくのが見えました。ヘッジホープ・ヒル(Hedgehope Hil)から、トレイルはさらに丘に伸び、ドーム型のチェビオットの姿は山腹を急速に転がり落ちていく霧の帽子の下にすっぽり隠されていきました。私は霧にぶつかるやいなや、自分の視野が完全に変わることを知っているので、いつも霧の下に一体何があるのか、その謎解きが大好きです。

ここからトレイルは不明瞭になり、ぬかるんだ場所や泥を避けるために、石の間を飛び越え板の上をつま先で渡っていきました。それはすべて、今までにない楽しい旅の要素になりました。コーム・フェル(Comb Fell)に到着しそこで昼食をとることにしました。
スコットマン・ケルン(Scotman’s Cairn)

ルートの半分しか進んでいないにもかかわらず、日が短くなったことで太陽が急速に沈んでいっていること気づきました。「それでも前へ前へ進んだほうがいい」とハーベイは、谷に魔法をかけ始めた黄金の光を賞賛しながらつぶやいていました。ふと、迫り来る雲の下に隠れている目的地の800mの頂に目をやりました。この先も頂上からの眺めは期待できず、光が急速に消えていっていることに気づき、大きく立ちはだかるチェビオットを諦め、谷を通って帰路につくことを手短に話し合いました。しかし、ヘッドランプを着ければ頂上からの下り道はわかっていましたし、ナビゲーション的にも難しくはないと判断し、頂上を目指すことに決めたのです。なにより雲の下にある謎を解き明かしたいという想いに駆られ、頂上までの残り4kmの道をひたすらペースを上げ前進することにしました。

ハートホープ・バーン(Harthope Burn)のコースの終わりにあるスコッツマンズ・ノウ (Scotsman’s Knowe)の谷に降りるところで、谷の中核を行く簡単なルートをとる最後のチャンスがありました。しかし、ペナイン・ウェイ(Pennine Way)トレイルとの合流点であるスコッツマン・ケルン(Scotsman’s Cairn)には、頭を下げてお互いに見つめ合うこともできず、一時的に立ち寄っただけになりました。ペナイン・ウェイ(Pennine Way)は、ピーク・ディストリクト(Peak District)のイーデル(Edale)で始まり、スコットランドとの境界のすぐ近く、チェビオットからわずか30kmのカーク・イェットホルム(Kirk Yetholm)で終わる268マイルのハイキングトレイルです。ここが、私の家のあるピーク・ディストリクト(Peak District)から始まっているペニン・ウェイ(Pennine Way)トレイルのノーサンバーランド側の終点にとても近いことは私にとってとても重要なことでした。もっと日が長かったら、ケルンからスコットランドの境界までのわずか1 kmの道を、「スコットランドにも行ってきたよ」と言うためにスキップしながら向かったでしょう。残念ながら、日没までわずか1時間に迫ったそのときには、今回の目的地に向かうことしか頭にありませんでした。
チェビオット(Cheviot)

スコットマン・ケルン(Scotsman’s Cairn)を過ぎた頃、私たちはまた雲の中に消え、チェビオット(Cheviot)に向かう最後の登りまで、さほど時間はかかりませんでした。最近新しく整備された石臼の破片のようなものがトレイルに敷かれていましたが、道は完全に霧に覆われ、泥に埋もれていました。皮肉にも、ペナイン・ウェイ(Pennine Way)のトレイルが始まるピーク・ディストリクト(Peak District)のキンダースカウト(Kinder Scout)を思い出しました。誰かが同じような場所で268マイルのトレイルをスタート、またはゴールしたかもしれないと考えると可笑しくなりました。そして同時に、霧の向こうにどんな景色があるのかはわかりませんでしたが、自分のハイキングブーツの下に広がる地球はまったく同じであるように思えました。

チェビオット山頂は大きくて平らなドームで、はっきりとした白いケルンが特徴の頂上というよりも台地ようです。かつては標高3000m、直径約60kmだったと考えられているように、確かにひどく侵食されていました。頂上に到達したときの感想は、日没わずか20分前に標高800mに到達できたという安心感しかありませんでした。
日没、ハートホープ・バーン(Harthope Burn)へ下山

いつもなら頂上で喜びのテータイムを楽しんでいましたが、今回はその余裕はなく一瞬だけ立ち止まっただけでした。チェビオット(Cheviot)からこのルートの最後の頂上であるスカルド・ヒル(Scald Hill)までの2.5kmのコースは、息を呑むような素晴らしいものでした。霧の中から脱出すると、谷の反対側の右側にヘッジホープ・ヒル(Hedgehope Hill)のはっきりとしたドームが見え、ノーサンバーランド国立公園の遥か遠くの山頂、森林、そして岩山は、目まぐるしく形を変えていく霧とパステルカラーの空の間をいったりきたり。美しいピンク色に染まった夕日が降り注ぐ壮大な景色を眺めることができました。谷にまだ光が差し込んでいて、夕日を眺めるのに最高のタイミングに雲から出てきたことに大興奮しました。スカルド・ヒル(Scald Hill)から、まだ光がある間に小川に向かって下山し、暗闇の中、小川に沿った最後の3 kmの道では、一日の出来事をゆっくりと振り返ることができました。

この国の新しい地域でハイキングをする機会があることは、いつも私をこのような喜びと、次はもっと新しい発見をしたいという熱意で満たしてくれます。ノーサンバーランドは私が想い描いた通り荒々しく険しいものでしたが、まだ多くの謎に包まれています。おそらくそれは、今回のルートを霧が覆っていたせいかもしれません。私は、未知の景色、トレイル、山頂がたくさんあることにワクワクしています。ノーサンバーランド国立公園には、わずか15kmのトレイルではカバーしきれない以上のものがまだまだあるので、そう遠くない未来にまた訪れることでしょう。
 

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