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文: Vivienne Crow
写真: Aimee Mcilvennie

イギリス、湖水地方のピークの中で最も有名なヘルベリン(Helvellyn)は、ヒルウォーカー憧れの地です。 950mの息を呑むような絶景の頂上へ続くルートが多数ありますが、狭く急な尾根を行くストライディング・エッジ(Striding Edge)は、自分の能力と度胸を試したいハイカーにもってこいのルートです。

今回は、作家でありヒルウォーカーの常連ビビアン・クロウ(Vivienne Crow)が、冒険写真家ソフィー&エイミー・マクリヴェニー(Sophie&Aimee Mcilvennie)とマムート・マウンテン・スクールのガイドとともに、ヘルベリン(Helvellyn)の頂上を目指す周回スクランブルルートに挑みます。

左腕をチムニー(The Chimney)から突き出た細く頑丈な岩に引っ掛け、右手で安全な場所を見つけよじ登る。「君の頭の右側にいいホールドがあるよ。」と、マムート・マウンテン・スクールのガイド、ニール・マッケイ(Neil Mackay)が教えてくれました。ホールドは見つけたけれど、次は不安定な小さな木の突起から足を踏み込まなければならない。動かないだろうか?頭の中で「動くはずだ」という声と「動くわけがない!突起の下が空洞なわけじゃあるまいし」という声が響く。岩が砕けたらどうするの?恐怖で身体が硬直しそう!
ガイドのニール、私、モンキー・クライム・マウンテンズ(Monkeys Climb Mountains)のエイミーとソフィーは、イングランドで3番目に高い山につながる狭い山の背、ストライディング・エッジ(Striding Edge)に沿って頂上を目指しました。出発した時、グレンリディング(Glenridding)の駐車場はハイカーやスクランブラーで大賑わい。皆の視線は壮大なヘルベリン(Helvellyn)に向けられていました。

ここから950mの頂上まではいくつかのルートがあります。ポニールートは、何世紀にもわたって荷馬車で物資を運ぶために使用していたルートで、場所によっては傾斜がきつく岩場が続きますが比較的簡単なルートです。グライズデール・ターン(Grisedale Tarn)に続く壮大な氷河でできたグライズデール(Grisedale)谷を長くゆっくりと登り、ヘルベリンに最も近いピークの1つであるドリーワゴン・パイク(Dollywaggon Pike)に続くルートもあります。その中でも最も有名なルートは、展望の開けた尾根を行くストライディング・エッジ(Striding Edge)から、平行に横たわるスウィラル・エッジ(Swirral Edge)を経由する不安定な周回スクランブルルートです。
スクランブリングとは?手を使って急な岩場を駆け登る山行スタイルのことです。スクランブリングとロッククライミングの違いは?ロープを使用する可能性のある「グレード3」のスクランブルと、本格的なロッククライミングの間には微妙な境界線があります。ストライディング・エッジ(Striding Edge)は「グレード1」のなかでも低いグレードにあたり、エッジに飛んだ地形に挑戦したいヒルウォーカーにとって最適な入門ルートです。装備(冬季以外)は、保温性と防水性のあるウエア、地図とコンパス、懐中電灯と予備のバッテリー、食料と水、救急セット、フル充電された携帯電話と適切な靴など、日帰りハイキングに通常必要なものだけで大丈夫。ガイドのニールは万が一に備えてハーネス付きのロープとヘルメットも装備してくれました。

稜線には雲が低く居座っていてミレス・ベック(Mires Beck)の頂上に到達した時もヘルブリン(Helvellyn)のゴツゴツとした東壁の様子はまったくわかりませんでした。いつもならここで、スウィラル・エッジ(Swirral Edge)の優雅な尾根に連なるキャスタイ・カム(Catstye Cam)のピラミッド形のピークや、氷河によって削られた地形ならではの珍しい北極圏の高山植物が見られるのですが、今回はすべてが湿った霧の壁に覆われて何も見ることはできませんでした。
冒険はホール・イン・ザ・ウォール(Hole-in-the-Wall)ルートの分岐点のすぐ先から始まりました。ほとんどのハイカーは、頂上を避けて、ストライディング・エッジ(Striding Edge)の北側のよく踏まれた道を歩き続けていましたが、私たちは最も高い場所に移動しました。「いつも僕は、最初にここを目指すのさ。この露出した地面をどれだけうまく対処できるかを経験することができるからね。」とニール。壊れやすい霧のカーテンが渦巻いては、霧が晴れ、南側に断崖の爽快な風景を映し出した時、私の心は高鳴り、満面の笑みを浮かべました。「できる限り岩を動かさないように登ろう。滑りやすいけど、尾根が狭くなる前にここで慣れておくといいよ。」湿った岩がいかにツルツルであるかを実感し緊張感が走りました。前にストライディング・エッジ(Striding Edge)を横断した時は一瞬一瞬を心から楽しめましたが、その時は夏で、地面が乾いていて、靴が岩にくっついているような感覚で歩けていたからでした。今日はその可能性は全くありません。ニールは、ぬるぬるしたスラブの上を移動する時、ブーツのかかとの縁を使って自分自身を固定する方法を実演してくれました。

やがて、アレーテ(arête;尖った尾根)は狭くなり、脇道をたどっていた多くのハイカーたちは、私たちが進んでいた岩がむき出しになった道に合流せざるを得なくなりました。 途中、1858年11月、狐ハンターのロバート・ディクソン(Robert Dixon)が滑落した場所を示す記念碑を通過しました。彼はパタデールフォックスハウンド (Patterdale Foxhounds;犬種)を追いかけていた時に事故に遭いなんとか下山したものの、その怪我が致命傷になり翌日亡くなりました。それは、ストライディング・エッジ(Striding Edge)がいかに危険であるかを思い出させ、身の引き締まる思いがしました。
山岳救助ボランティアによると、この尾根とその北に隣接するスウィラル・エッジ(Swirral Edge)では毎年数十件の事故が発生するそうです。事故のほとんどは冬場に起こります。なぜなら、ヘルべリン(Helvellyn)が氷に覆われ滑落の可能性が高くなり、アイゼンとピッケルが必要な本格的な登山の冒険になるからです。ニール曰く、マムート・マウンテン・スクールではヒルウォーカーを対象とした雪や氷の上での傾斜面を安全に移動するために必要なノウハウを学べる講習があるそうです。しかし、冬以外の時期にここで事故がおこらないということでは決してありません、実際に事故はたくさん発生しています。たとえ今日のような静かな秋日和でも、強風や大雨の予報があった場合、マムート・マウンテン・スクール(レベル2)のプライベートガイドツアーは中止になります。

再び尾根のすぐ下に脇道が現れ、歩きやすいこのコースを選ぶ人もいましたが、私たちはより厳しい岩場を選び、ゴツゴツとした岩を慎重に進みました。ニールは 「ひざまずかないといけないような大きなステップは避けるように!」と言いました。私は自分の短い足には大きすぎる岩の階段をぎこちなくよじ登っていきました。 「ひざまずいた姿勢から立ち上がるのはもっと難しいからね。」彼の言ったことは間違っていませんでした。
次に、彼は安全に降下するためには手と足を使って岩に対面するようとアドバイスしてくれました。滑りやすく険しい地面を簡単にこなしていく彼を見て、うらやまくも、彼のガイド能力は完璧だと感じました。国際山岳ガイド連盟の最高レベルの資格を取得し、アルプスの氷河や、雪に覆われたのこぎりの歯のような尾根をガイドする38歳のニールにとって、ストライディング・エッジ(Striding Edge)は公園を散歩しているようなものに見えます。私はというと、リュックが私の背中を押してくることもあり、岩場で一番危険な行為である、お尻で滑っていきたいという衝動に駆られていました。また、最初のトラバースでは楽しめなかったストライディング・エッジ(Striding Edge)のチムニー(Chimney)に近づいたときには、ダウンクライミングの練習をしておけばよかったと痛感しました。

次は、岩が重なり深い淵のように足を置くところがない場所が続きます。「やったことはある、楽しめなかったけど問題なくできた。」と自分に言い聞かせると同時に、自分はもう岩場の先端は過ぎて、岩に囲まれた比較的安全なところにいるのだと安心させました。今転んだとしても、崖を数百メートルと滑落することもないだろうし、なによりニールが深刻な怪我を防ぐため、私を下からしっかりと補助してくれている。彼からの降下時のアドバイスを思い出し、私は上半身を岩から少しだけ押し出しました。これで、下の状況を判断できます。そして、左足を下ろし始めました。足場が見え、もう少し先...そうあともう少し... 残念ながら、私は足場を見逃し下の岩棚につまずいてしまいました。しかし、これで難所はクリア、私は安堵からつい笑ってしまいましたが、それは引きつったぎこちない笑いでした。
ストライディング・エッジ(Striding Edge)の岩だらけの山の背を、私がよろよろと進んでいたのとは対象的に、簡単そうに完璧にこなしていたソフィーは、ロープを張って強烈な岩塔をより冒険的に降下しようとしています。彼女とニールはハーネスとヘルメットを着用し、ニールは、彼女が落下した際、彼女を支える準備をしています。その間、私は休憩して、他のスクランブラーとの会話を楽しみました。チムニー(Chimney)を終えて真っ青な顔をしている人、達成感を得て、気取っている人もいます。 私より疲れ果てている様子の女性が「ここで休憩しよう」と仲間に言いましたが 「休息なんて弱虫よ」と次の行程へ連れて行かれてしまいました。

次に何が待ち構えているのか。実際、ストライディング・エッジ(Striding Edge)は過ぎましたが、まだ、ヘルべリン(Helvellyn)の頂上まで、約120メートル登攀しなければなりません。祝杯はまだ先です。この先のルートも、尾根を行った時と同様、どの地形のルートをとるか、いつかの選択肢があります。岩を真っ直ぐ上に進むのか、山肌のがれき道をたどって岩を避けるのか。(山羊のような脚力があれば、チムニー(Chimney)は避けられますが、南側の厄介な迂回コースで滑落すると、ネザーモスト・コーブ(Nethermost Cove)に続く急な岩場を200メートルほど滑落する可能性があります。)
私たちが最後の登りに挑む時、霧が私たちの今までの努力に対してついにご褒美をくれました。すべてを覆していた灰色の霧が、一瞬小さな裂け目を開き、私たちの下に広がる世界を垣間見せてくれたのです。風景は魅惑的であると同時に恐怖も与えます。霧に霞み、狭い岩で区切られたのゴツゴツした塔。本当にそれを歩ききったのか?霧のカーテンが少し開いて、私たちのはるか下に、氷河期後期からここで生き残った絶滅危惧種の魚が生息するレッド・ターン(Red Tarn)の暗い海が見えました。

ようやく山頂に広がる芝の高原が現れ、私たちは数多くの山の犠牲者の一人、チャールズ・ゴフ (Charles Gough)の記念碑を通り過ぎました。1805年、彼の腐敗した遺骨は近くの岩山のふもとで発見され、そのニュースは、ウォルター・スコット(Walter Scott)卿と地元の詩人ウィリアム・ワーズワース(William Wordsworth)の創作意欲を刺激しました。彼らにインスピレーションを与えたのは彼の死そのものではなく、3か月後に発見されるまで、主人の横にとどまっていたゴフの犬の話でした。ワーズワースは、犬の忠誠心の物語とし敬意を表し、フィデリティ(Fidelity)という詩を書きました。一方、地元の新聞は、犬が主人の体から服を引き裂き、「主人を食べ完璧な骸骨にした」と報じ、より残酷な出来事として伝えました。

圧迫感のある狭い山の背の後でもあり、ヘルべリン(Helvellyn)の頂上は非常に広々と感じました。道は四方八方に別れ、ここにはたくさんの目印がありました。昼食をとる休憩中のハイカーでいっぱいの十字型の避難所、三角点、そして、真の950メートルの頂上を示す巨大なケルン。飛行機を着陸させるのに十分なほどのスペース。実際、1926年には、ジョン・リーミング(John Leeming)とバート・ヒンクラー(Bert Hinkler)がバイプレーン(複葉機の飛行機)の適応性を示すために、クリスマスの数日前にAvro585 Gosportをこの高原に着陸させました。ヒンクラー(Hinkler)がエンジンを全開に保ち、リーミングが飛び降り、車輪の後ろに岩を詰め込んで下り坂を転がるのを止めました。彼らは東壁のすぐ手前で停止。さらに数メートル先だったら彼らの大胆な実験は惨事に終わったことでしょう。
晴天時には、すばらしい絶壁を見渡せ、レッド・ターン(Red Tarn)を見下ろし、アルズウォーター(Ullswater)に沿って遠くノーズペニン(North Pennines)まで行くことができます。もちろん、今日ではありませんが。今日は雲がすべてを覆い隠し、私たちは雲をただ見つめているだけでした。ニールは、冬が湖水地方に到達する数週間後には、ここはいつ崩壊してもおかしくない不安定な雪庇に覆い隠され、ここを冒険することはできないと説明しました。

レッドターン(Red Tarn)を囲む2つの尾根のうちの2つ目であるスワイラル・エッジ(Swirral Edge)に差し掛かると、差し迫った冬のことが再び話題になりました。 ストライディング・エッジ(Striding Edge)の出口と同様、この山の背に続く不安定な石の斜面は、まわりの雪が消えた後に氷で詰まることがよくあります。多くのスクランブラーが、山を見上げて冬が終わったと信じ、アイゼンやピッケルなしでトラバースができると誤解してしまうのです。この時、国立公園の評価サービスが文字通り命の恩人になります。経験豊富な登山家チームが冬の間毎日ヘルべリン(Helvellyn)に登り、雪線のレベル、積雪の安定性、風速などの地面の状態に関するレポートを提供します。 www.lakedistrictweatherline.co.ukまたは英国気象庁の湖水地方の山の天気予報からアクセスできるこのサービスは、通常12月1日からイースターまで実行され、冬にこのルートを行く人にとっては必読です。

ストライディング・エッジ(Striding Edge)と同様に、スワイル・エッジ(Swirral Edge)の岩は湿っていて滑りやすいです。より扱いにくい角度で傾斜しているため、滑る可能性は高いですが、技術的には難しくありません。また、有名な隣人ストライディング・エッジ(Striding Edge)に比べるとかなり短く、そこで何時間も過ごした後だったので、スワイル・エッジ(Swirral Edge)はほんの数分だけのように感じがっかりでした。ひざやお尻は常に泥に覆われ疲れ果てていて、グレンリディング(Glenridding)に戻るのにより簡単な地形を切望している自分と、まだまだ高いところにいて本当は下山したくないと思う自分がいました。

マムート・マウンテン・スクールは、最高のマウンテン・アドベンチャー・コースを提供することを目的とし設立されました。スクールは最高のインストラクター、ガイド、装備、そしてすべての人に世界トップレベルの体験を提供しています。

コースは、山を最大限に楽しむために必要なスキルと自信が持てるように注意深く設計されています。あなたの冒険をさらに深める為、ぜひエキサイティングな様々なコース内容をチェックしてみてください。
 
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